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ghost

ものわすれがひどいのと文章の練習とおたく

モノクロームの景色を極彩色に染め上げる

昔から少女漫画が大好きだった。かっこよくて優しい男の子に、女の子が一生懸命恋をして、ときめいて傷ついて、最後は幸せになる。この幸せになるというのは、意中の相手とのハッピーエンドがもちろん望ましいけれど、それだけで終わらないものもある。

わたしが人生で一番好きな少女漫画である矢沢あいの『Paradise Kiss』もそのひとつだ。 

Paradise kiss 全5巻 完結セット (Feelコミックス)

Paradise kiss 全5巻 完結セット (Feelコミックス)

 

 わたしは昔から漫画が大好きで、お小遣いの全てを費やして少女漫画を買っている女の子だった。月初めに母からお小遣いをもらうと、本屋さんへ行って、りぼんとちゃおとなかよしを買って、それでその月のお小遣いが終了していた時期もあった。友達にもいろんな漫画をおすすめして、お互いに貸し借りもしていたけれど、わたしは何せ月のお小遣いを全て費やしているので、貸す方が多かったように思う。自分の好きなものをオススメして、その話で盛り上がれるのはとても楽しかった。でもこの漫画に出会った時、初めて誰にも渡したくないと思った。自分でもひどく子供じみている、と思った記憶がある。でも、本当に誰にも貸したくないとそう思った。そんな幼い独占欲が芽生えてしまうくらいに、この作品はわたしにとってすごく衝撃的で、装丁の美しさもあって、宝物のような本になった。

Paradise Kissを読むまでの矢沢あい先生の漫画の印象は、絵が特徴的で、ファッションの話と、不思議な話を描く人だった。後ろ2つは『ご近所物語』がアニメでやっていたことと、『下弦の月』がりぼんで連載していたというだけの理由。小学生のわたしは実果子にはあまり感情移入していなかった。家庭環境の複雑さとか、徳ちゃんへの憧れとか、皆がそれぞれ持つ精神的な弱さとか、まだわからなかった。同じアニメ枠だった『ママレード・ボーイ』を見る方がよっぽど夢中だった(あれも家庭環境自体はすごく特殊な設定だったけれど、重苦しい空気がそんなになかったからだろうか)。

ジョージは作中で指摘されている通り、少女漫画のヒーローとしては型破りな存在だ。主人公の紫に惚れ込んで、ミューズとして彼女を自分のアトリエへ誘うし、好きそうな素振りを見せるのに、紫が自分自身で選択しない限りは、甘い態度をちっとも見せない。例え自分相手だとしても、夢への大きな選択より、甘い恋愛を取ろうとするものなら、ピシャリと軽蔑されて叱咤されてしまう。それは父親に振り回されている母親を見て育ったジョージが、誰よりも夢を置い続けているジョージが、自分自身にも相手にも最も求めているところだからだったと思う。この美しくて痛々しくて漫画のラストは、ジョージが求めていたミューズが、紫ただ一人であったからこそのラストだ。何もかもを周囲のせいにして憎んできた紫が、ジョージに出会って世界を極彩色に染められて、自由に羽ばたいていく。一人の女性として、強く、そして輝かしく。

小説や漫画や映画というのは、読む年齢、もっと言うとその日のコンデイションによって感じ方や捉え方がまるで違う。まあ今日読んで明日だと微々たる差異かもしれないけれど、十代と二十代とか三十代とか。年代の違いになるとかなりそのコンディションに差が出てくるので、初読の時と全く違う印象を抱くことも少なくない。でも、Paradise Kissを読む時、わたしはきっといつも衝撃を受けたあの日の自分に帰っている。表紙を開けて、ジョージの作った不可能を可能にする青い魔法のドレスが、トルソーにかかっている中表紙に見惚れ、台詞や独白の文字を指でなぞり、心に飾っておきたい珠玉の言葉の数々を口ずさんでみる。

青い髪の型破りヒーローの名前はジョージ。譲ニじゃなくて、ジョージだ。